化学フロンティア研究会
“化学”を共通の言語とする研究者の集いです
現代社会において化学者が果たさなければいけない課題は多岐に亘ります。海水の純粋化、太陽光発電、難病の治療薬など、新聞やテレビを賑わす話題が最たる例でしょう。このような環境問題解決や医療へと繋がる実用化志向の研究が重要なことは誰の目から見ても明白です。一方で、我々が快適な生活を行うためには、“化学”の力によって創出される化学物質が欠かせません。例を挙げるとキリがありませんが、衣類は化学繊維、食糧生産の肥料、住居の断熱材、衣食住の全てに“化学”の力が発揮されております。
こうして見ると、化学者は重要な存在だと思えてくるのですが、悲しいかな、我々の研究成果がこのように実用化さることは非常に稀であります。薬の候補化合物など数えきれない程創り出されているでしょうが、ほとんどが世に出てきません。産業界だけではなく、アカデミア(大学など)でも同じことが言えると思います。では、世に出てこなかった研究は無駄なのでしょうか?私たち化学者は、必ずしも無駄であるとは考えていません。製品化されるまでの過程で培われたノウハウ、化合物の物性情報は今後につながるでしょうし、新たな化学反応も生み出されていきます。そういった基礎的な情報は、応用研究と共に重要ですし、サイエンスの発展には基礎研究というものは切っても切れない存在でしょう。しかし、企業は製品の売り上げの一部で新たな製品開発をし、アカデミアは主に国民の税金の一部を研究費として利用しております。その事を鑑みると、一個人の興味だけで研究を進めるのではなく、基礎・応用の面でサイエンスを発展させるための化学研究、というものが求められます。
昨今のITインフラの整備により、情報処理の速度は猛烈な勢いで加速しております。それに伴い、研究の進展も速さを求められ、世界中で熾烈な争いが繰り返されており、息をつく暇も無いほど慌ただしい世の中になってきております。また、“化学”だけをみても、分野は非常に細分化されてきており、一人の力が及ぶ範囲というものは限られております。それは、研究者の視野が益々狭くなっていくことを意味しているのではないでしょうか。我々はこのような状況を危惧し、“化学”の名の下に集い、分野をまたがり広く情報交換をする事で、自分たちの視野の拡大、更には学際的研究の進展に大きく貢献できるのではないかと考え、ここに本会を設立するにあたりました。本会は産業界、アカデミアにおいて最前線で研究を行っている若手研究者より構成されております。今後10年、20年先に、本会構成員が中心となって行った研究の成果が、広く社会に還元されていることを願い、活動していくことを誓います。
2012年3月 運営委員代表 小和田